2011/11/01

大学院での授業・圓通寺借景庭園見学

 私が造園の学校から、こちらの大学院へ移って、毎年行っている授業見学があります。見学場所は、大学からほど近い圓通寺さんの借景庭園です。見学の基となる大学院の授業は、「地域景観保全学特論」といった小難しい名前ですが、私たちの身の回りなどの地域の景観や風景、生き物の生息環境など、今の現状がどうであり、それがどのように変わってきているのか、それらをどのように保全や維持したらいいのか、といった感じの講義です。つまり、ランドスケープの視点が必要な授業なのです。

 圓通寺は、全国的にも知られた借景庭園を有するお寺です。比叡のお山を借景として取り込み、そのダイナミックな景観は、平庭枯山水の空間と相まって、非常に美しい庭園を醸し出してくれています。この庭園は、周辺の環境を取り込むことによって借景を構成し、「景」をなす庭です。ですから、このお庭の「景」の維持には、周辺の環境のあらゆる変化より、多くの障害が出てきて、かつてあったはずの「景」そのものが変化せざるをえません。そのため現代における「景の維持」には、非常な苦労がつきまといます。つまり、この地域の景観をどう保全するのかが大切になってくるのです。

 圓通寺周辺では、周辺地域の環境が変化することに対して、それを見せないようにご住職が努力されています。例えば、今まで無かった建造物、構造物などが周辺の環境を大きく変化させてしまっています。その大きく変化したものに対して、今まで見ることのできた庭園の借景部分を著しく変えないよう、植栽や樹木等の剪定をされてきています。不要なものを隠すようにしているのです。とはいえ、以前畑だった環境は、さらなる宅地化の波、経済重視によって景観を無視して大きく変化してしまいました。私が小さい時に見た景観は見る影が無くなり、言いようのない不安を覚えます。変化してきた周辺環境も、ご住職の話によれば、すこしは落ち着いてきているとの事。今回は、ご住職のお話が直接聞けて、学生たちもより良い景観を見る視点やその借景の内容について深く学ぶことが出来たとも思います(どうも有り難うございました)。

 日本における景観や風景に対しての取り組みは、残念ながら、日本各地、まだまだ遅れていると思わざるを得ません。京都のような景観や風景を重視しなくてはいけない歴史的な空間であっても、残念な結果が多いものです。今回、見学した学生さん達が、この「景」を見て、どう映ったのか…。広い視野でのランドスケープを学ぶきっかけとなればと思います。


圓通寺の借景