2022/10/15

島のムクノキ

 船でしか行けない瀬戸内の小さな島に私の母方の田舎が有ります。子供の頃からその島へは夏休みや冬休みにいそいそと行って,のんびりと過ごしていました。今も定期的に行って過ごしていますが,徐々に島の景観が変わってくるのが残念です。当時,この島には農協さんによる販売店がありました。銀行や保険も扱っているしっかりとした農協さんです。大正時代のモダンな建物の中にその農協が営業をしていました。曾祖父らが資金を提供して作った建築でした。とてもモダンでいま残っていれば・・・とつくづく思います。

もう危ない状態でした(2017年夏撮影)

 島には大きく3つの地区にわかれるのですが,私の田舎の家のある地区にあった農協さんは,人口減などによって銀行や保険業務をまず停止し,建物から撤退しました。そして物品販売も移動販売に移り,とうとう建物もなくなっていきました。田舎に来てみて更地になっている光景を見て,驚きと,そして何ともさみしさを感じたのです。ぽつんと写真の様にムクノキの大きな木のみが残っているだけです。

ぽつんと樹は残りました
 景観というよりも,ここでは心象的なことも強いので「風景」という単語になると思うのですが,風景が欠如していく様は,いままで蓄積してきた見たものが無くなっていくことで,さみしさを作り出している気がします。景観や風景に正解はありません。見る人それぞれに思いが有って,残すべきもの,無くなって仕方がないものと,取捨選択が脳内で測られていきます。私にとって,大正の建築はそこにあって当たり前のものでした。が,無くなってしまうと喪失感が大きいと改めて感じたものでした。余り写真とか残していないもので,有って当たり前が,当たり前で無くなって,初めて理解できるものかもしれません。

 景観を講義で教えている中で正解のない景観,風景のことは,とても難しい学問ではないかと日々感じるところです。学生には色々沢山物や風景を見て欲しいと言っているのですが,さてどういった答えが正解なのか・・・難しい所です。