2022/01/12

津和野藩校と津和野百景図の活用

 昨年下半期より津和野町にある青野山の整備に関わっています。その話し合う場所として津和野藩校養老館で行われました。こういった会合の場所で藩校での利用は,私にとって初めての経験で大変新鮮でした。洲本市でも国名勝の旧益習慣庭園の整備や保全の打ち合わせでは純日本家屋の空間で行われるのも,心落ち着くものですが,この津和野藩校は中を上手く残しながら,リノベーションされており,外から見えない冷暖房完備は驚きです。文化財の価値をそぐわないように活用する良い事例の一つかと思います。全てオリジナルに戻すことは可能でしょうが,直すべきものと,活用すべきものを上手く考えた例かと思います。ここは島根県指定史跡でもあること,昨今の文化財活用を踏まえたこと,また伝統的建造物群保存地区でもあることを考えてみると,その整備には苦労もあっただろうなと感じます。

 注目したいのは藩校建築の内部で,江戸期の雰囲気を保ちつつ,学べる空間を維持構成していることです。そして,中庭も丁寧に整備されており,江戸の雰囲気を感じつつ,江戸から令和に繋がる時代の変遷で,良くこのようにしっかりと残ってきたのだなと,徐々に感じてくるものがあります。次の会合も楽しみです。

 数年前の平成の最後のあたり,2か年弱の期間ですが,日本遺産の「津和野百景図」の中の景観,地形,文化財,植生,生き物などについて景観生態と緑地計画の視点で調査を依頼され,全町域,旧津和野藩全域を回ってきたことがあります。その時,子供の時に訪れた時の津和野の街並みが変わっていないこと,そして改めて町全体を回って初めて知ったことも多く有りました。驚いたことに,この百景図の作者である栗本格斎(栗本里治)が見て絵で残した空間と同じなのだなと強く思いました。格斎翁が仕えていた幕末の津和野藩主・亀井茲監の時と同じ光景だということが江戸と令和を結ぶ面白さと時代を残してくれたことのありがたさを感じました。

 藩校の活用は目に見える利用については多いですが,この百景図は中々活用をするにあたって,観光や学習など,媒体としてまだまだ利用できそうです。学ぶことにおいて,この空間が残っていること自体ありがたいことです。歴史と時代を見えない線をむすぶ大きな役割を「津和野百景図」は担っています。絵ですが,それだけでも活用ともいえる一つかと私は思うのです。

養老館の中庭です