2023/03/16

善海田稲荷

 石巻南浜津波復興祈念公園の中にある善海田稲荷です。東日本大震災の津波と津波火災で,ここの場所は,大きな被害を受けました。その後に作られた南浜津波復興祈念公園の敷地の中に,このお稲荷さんはおられます。此処にあることは,震災前の記憶を繋ぐための大切なお稲荷さんと感じられます。同じようにこの津波復興祈念公園には,北向地蔵さまも安置されています。このお稲荷さんとお地蔵さまは,地域の記憶を繋いでくれる大切な存在です。此処にお稲荷さんがあったことで,震災前に住まれた方の記憶が少しでも残ってくれるのではないかと感じます。

 私が訪れた日に,ちょうど足の悪い高齢の女性がタクシーで来園していました。震災前にこの地に住んでいたそうで,震災後初めてここを訪れたということでした。「今では公園の芝が敷き詰められており,かつての家屋があった光景はわからないものの,このお稲荷さんのあるお蔭で,自分の家の位置がおぼろげにわかります」と聞きました。

 私たちは記憶を霞(かすみ)のようにしてしまうこともできます。これは,つらい記憶を薄くする効果としては大変有効です。しかし,薄くすることで,自身の立っている位置がわからなくなってしまうのは,良いと云えないかもしれません。記憶を繋ぎ留め,記憶を次へも続けて残してくれる。このことは,このお稲荷さまが,その手助けをしてくれているということになり,私たちにとってとても大切なことと言えるのではないでしょうか。

 そこにあることの意義と意味,その存在感が醸し出す景観は私たちにとってとても大切なことと言えましょう。なくなった景観を繋ぎとめるもの。景観を研究の対象としている者として,考えるべきことだと強く感じています。

善海田稲荷さま